このページでは最小帰還辺集合問題と呼ばれるNP完全・NP困難な問題をイジングモデルで表現する方法について述べます。
問題の定式化 #
有向グラフ が与えられます。 このとき部分グラフ が無閉路であるような のうち が最小のものを求めます。 これはNP困難な問題として知られています。
問題の具体例 #
以下のような8個の頂点と11本の有向辺から構成されるグラフを考えます。
このとき、この問題の答えは図の右側の赤い辺の集合で、最小の要素数2を達成します。
実際に、任意の水色の頂点からスタートし元の頂点に戻るような全ての経路について、赤い辺を少なくとも1回通ることが確認できます。このような辺の集合の要素数を最小化する問題です。
イジングモデルへの変形 #
部分グラフ が無閉路であることは、 辺 に対して であるよう各頂点 の高さを決められることと必要十分です。 この考えに則ってエネルギー関数を構成します。
各頂点 に対して、 高さが であるときに1をとり、そうでないとき0をとるバイナリ変数 を定義します。 次に、各辺 に対して、 のとき0をとり、そうでないとき1をとるバイナリ変数 を定義します。 また、 かつ頂点 の高さが のとき1をとり、そうでないとき0をとるバイナリ変数 を定義します。
A,Bを正の定数とします。 このとき、エネルギー関数は以下のようになります。
エネルギー関数の最小化により問題が解けるのは何故か #
それぞれのエネルギー関数の各項はどのような制約を課しているでしょうか?
まず の第1項は、 各頂点 についてただ一つの高さ が存在するという制約を課しています。
また、 の第2項は、 各辺 に対して、 ならばただ一つの高さ を持ち、そうでないときは高さを持たないという制約を課しています。
最後に、 の第3項は、 各辺 が高さ を持つとき、頂点 の高さが かつ頂点 の高さ が であるという制約を課しています。
以上の制約により、部分グラフ に対して各頂点 の高さを決めることができます。 よって、エネルギー関数の最小化により が無閉路であるような を得ることが出来ます。
は帰還辺集合の大きさを最小化するためのものです。 なる辺が少ないほどエネルギー関数が小さくなります。 このとき、帰還辺集合の大きさの最小化よりも制約の遵守を優先するので である必要があります。
参考文献 #
A. Lucas, “Ising formulations of many NP problems” (open access)