この度、公開シンポジウム「量子アニーリングが加速する最適化技術」及びD-Wave社主催のハンズオンセミナーに参加いたしましたので、ご報告いたします。
公開シンポジウムについて #
イベント概要(と、そこから読み取れる東北大学の本気) #
5/21(月)、東北大学の主催により公開シンポジウム「量子アニーリングが加速する最適化技術~自然現象を利用した量子アニーリングが築く社会基盤~」が開催されました。量子コンピュータのキープレイヤーによる基調講演やパネルディスカッションが行われ、130名程の来場があった模様です。タイムテーブルは以下の通りです。
時間 | 内容 | 登壇社名 |
---|---|---|
- | 開催挨拶 | 東北大学総長 大野 英男氏 |
– | 来賓挨拶 | 文部科学省 研究振興局 計算科学技術推進室 室長 坂下 鈴鹿氏 |
13:40~14:10 | 基調講演「An introduction to Quantum Computing」 | President, D-Wave International Bo Ewald氏 |
14:10~14:40 | 「量子アニーリングの進展」 | 東京工業大学 理学院 教授 西森 秀稔氏 |
14:40~15:10 | 「量子アニーリングが拓く新時代~計算基盤、人材育成、社会実装」 | 東北大学 大学院情報科学研究科 准教授 大関 真之氏 |
15:10~15:20 | 休憩 | |
15:20~16:30 | パネルディスカッション | パネラー
|
登壇者を見ていただけると、量子アニーリング研究にかける東北大の情熱が伝わってくるかと思います。産業界からは、D-Wave社Bo Ewald Presidentをはじめ、量子コンピュータの実用化を進めるリクルートコミュニケーションズやデンソーの方々、学術界からは、東北大学の大関准教授はもちろんですが、量子アニーリングの提案者である東工大理学院 西森教授も登壇されており、現時点の日本における量子アニーリングの中心メンバーをよくぞここまで集めることができたな、と感じました。
なお、東北大学からは大野総長自らシンポジウムの全日程に参加しており、東北大の量子コンピュータに対するコミットメントを感じることができました。また、文部科学省の方も全日程参加しており、政府関係者も強い関心を持っていることが伺えます。
講演全てが興味深かったのですが、その中でも印象に残った事項を以下紹介します。
そこに量子力学の知識はいらない #
西森教授の講演はここにある質問への回答を中心に行われました。量子ゲート型と量子アニーリング型の比較や、西森教授の最近の研究内容の紹介が行われました。そのなかで、西森教授が何度も繰り返していたのが以下の点です。
最適化問題をイジング模型で書く部分は量子力学と無関係。これは、応用を目指す者は誰でもやらないといけない。(がそれほど難しくない。)
アニーリングマシンを使う際には、問題をイジング模型に落とさなければいけません。しかし、そこに量子力学や統計物理学等特別なバックグラウンドは必要ない、大学一年生レベルの数学の知識があれば誰だってチャレンジできる、と繰り返し述べていました。
実際、Volkswagenの北京における渋滞解消の研究については、大関准教授の主催するT-QARDに所属する学部4年生でもすぐに再現できたとのこと。
Just Do It!! #
上記西森教授の言葉にもつながることですが、パネルディスカッションの中でBo Ewald氏が強調していたのが、”Just Do It!!”です。
西森教授が理論を提案してくれて、D-Waveはそれを”Just Do It”しただけ。エンジニアとは試行錯誤を続ける人間。量子コンピューティングのスローガンは”Just Do It!! みんなまずは試しにやってみよう!”
シンポジウムの中では、量子コンピュータのうちゲート型とアニーリング型の最も大きな違いは、ここにあるかもしれないとも述べられていました。ゲート型の方は理論がしっかりしているが手元に実機がなく試行錯誤ができない。一方で、アニーリング型は、理論は定まっていないが、試すことのできる実機がある。どちらをおもしろいと思うか、だと。
D-Wave ハンズオンセミナーについて #
イベント概要 #
D-Wave社主催のハンズオンセミナーは、上記公開シンポジウムと平行する形で5/21(月)~5/23(水)の3日間にかけて行われました。D-Wave本社から担当者が来日し、学生や企業担当者を対象に実際にD-Waveマシンを触りながらみっちりトレーニングが行われました。当社は最終日の個別相談会を担当し、当社の開発しているライブラリの紹介やコンサルテーションを行いました。
D-Waveマシンは赤ちゃん #
最終日の個別相談会では、大関准教授が”D-Waveマシンは赤ちゃんだ”とおっしゃっていたのが印象深いものでした。D-Waveマシンはまだ発展途上で、上手く使うためにはどのように問題を解かせるか人間がきちんと考えてあげなければならない、既存のコンピュータとも上手く組み合わせて使っていかなければならない、ただし赤ちゃんが故に急速に成長する、成長させるためにもまずは繰り返し試してみなければならない、と強調されていました。
みんな手探り #
いくつかの企業担当者さんがアプリケーションのアイデアを共有してくださいましたが、皆さん手探り状態、というのが正直な印象でした。アニーリングマシンを使うことで速くなる気はするが、実際にやってみないと分からないという状態です。なお、参加された企業は製造業、金融、インフラ等多岐にわたっており、ここでも量子アニーリングの可能性の高さを感じることができました。
相談会の後半では当社の作成したライブラリ等を使ったデモをさせていただきました。グラフ彩色問題やクラスタリングを対象として、その場で実際に数式を入力、イジングモデルへの落とし込み、D-Waveマシンでの実行を行いました。質問も随時いただき、参加者の真剣度を感じることができました。
まとめ ~合い言葉は”Just Do It!!”~ #
結局、試してみなければ何も始まらない!というのがこの3日間のメッセージだと感じました。Bo Ewald氏がシンポジウムで”Just Do It!!”とコメントしていたように、大関准教授がセミナーの中で”繰り返し試してみなければならない”とおっしゃっていたように、まだ用途もきちんと見えていないなか果敢に試行錯誤を繰り返すことのできる者こそが、量子アニーリングの将来を拓いていくのだろう、と思います。
シンポジウムでのBo Ewald氏のコメントを最後に紹介します。
採算性の確保できたアプリケーションは未だ一つもない。しかし、アニーリングマシンがいずれ満足のいくソリューションを提供できると信じている。量子コンピューティングは未来の一部。未来が見える頃にはタイムオーバー。ファーストランナーこそがその果実を得ることができる。