量子コンピュータユーザの集い #
この度、先日ドイツ ミュンヘンで行われた、D-Wave社のユーザカンファレンス“QUBITS EUROPE 2018”に参加してきましたので、会の内容や会場の雰囲気を報告させていただきます。
D-Wave社とは昨年の6月より協業させていただいており、当社はそれ以来量子コンピュータの導入支援を提供しています。そのようなご縁もあって、今回のユーザカンファレンスにお声がけいただいた次第です。
カンファレンスは4月10日(火)から12日(木)の3日間に渡って行われました。約100名程のD-Waveマシンユーザが集い、D-Wave社からのアップデートや、ユーザ各社の適用例を共有いたしました。
日本のユーザの存在感 #
先ほど100名程の参加者と書きましたが、そのうち25%程を日本勢が占めており、ヨーロッパでの開催とは思えないほど日本のユーザの勢いを感じることができました。
広告配信における量子コンピュータの実活用を進めるリクルートコミュニケーションズ様や、“T-QARD”という組織を発足し、D-Wave社との共同研究を本格化している東北大をはじめ、様々な企業・研究機関の方々が参加していました。
また、ユーザだけでなく、量子アニーリングの提案者である東工大理学院 西森教授も講演されており、改めて量子アニーリングと日本の深いご縁を感じることができました。
D-Waveマシンの進化 #
カンファレンスの中では、D-Wave社からのアップデートが最も印象的でした。
D-Wave の最新機種である“D-Wave 2000Q”では、量子プロセッサ上に2048量子ビットが配置されているのですが、ビット間の結合にキメラグラフと呼ばれる構造を用いています。これはビット間の結合数が6という制限があり、そのため量子ビット数の増加に対して計算できる問題規模の増大には限界がありました。
キメラグラフを利用したアーキテクチャは、世界初の商用量子コンピュータといわれる"D-Wave One"以来利用されてきたものですが、上記限界を打破するため非常に大きな変更を予定しているそうです。
具体的には、1ビット当たりの結合数を今までの倍以上である15に増やすことで、計算できる問題の規模を飛躍的に拡大させる計画とのことです。これによって量子ビットを増やした場合の効果が激増し、今まで通り2年毎に量子ビットが倍増すれば、これまで以上のペースで結合数も増えていく計算になります。
ヒシヒシと伝わるD-Waveの本気度 #
上記のような次世代チップの紹介以外にも、D-Wave社の量子コンピュータ普及にかける熱意を随所で感じることができました。
D-Wave 2000Qは2011年に発表された初代から数えると4代目のマシンとなります。従来のマシンに比べると量子ビットの数が倍増しているといった、言わば正攻法の進化はもちろんですが、ユーザがより詳細なパラメータ設定を可能にするための新たな工夫が施されていて、より良い解が得られるような環境が整備されています。
上記のような性能向上は最新の学術的成果に基づいており、マシンの進化と性能向上のためには貪欲かつ迅速に研究成果を取り入れていこうといったD-Wave社の姿勢を見て取ることができると思います。
加えて、D-Wave社内の研究者による適用例も非常に興味深いものでした。D-Waveマシンは組合せ最適化問題向け専用アクセレータとしての評価が主なものとなっていますが、今回のカンファレンスでは新たな使い方として、量子機械学習に関する研究成果や、量子化学・量子物性シミュレーションとしての活用例が共有されました。
D-Wave 社からは、自社のマシンの可能性を自らも開拓し、様々な分野や領域で広く使ってもらおうという動きが見受けられます。
盛り上げていきます #
以上のように大変刺激的な内容ばかりでしたが、人との出会いという意味でも非常に有意義な会となりました。
カンファレンス初日には参加者全員によるレセプションが行われ、D-Wave社の方はもちろん、他のユーザの方々とも交流することができました。
特に日本からの参加者の皆様とは連日ご一緒させていただき、日本におけるD-Waveマシンの活用に向けて大いに盛り上がった次第です。
D-Wave社の皆さんのおかげで、量子コンピュータの可能性は日々広がっています。ただ、そのポテンシャルを引き出せる技術者・研究者は限られており、一般的なソフトウェアエンジニアにはまだまだ敷居が高いのが現状です。
我々フィックスターズが環境を整備し、量子コンピュータのさらなる活用や導入支援を進めていきます。
出典 #
Future Hardware Directions of Quantum Annealing (Mark W Johnson, D-Wave Systems Inc.)