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機械学習を用いた次元圧縮 & QUBO構築による
アニーリングマシン向け計算補助ミドルウェアの開発

プロジェクトメンバー

山下 将司様(写真左側)

慶應義塾大学大学院
阿部 哲郎様(写真右側)

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取り組んだ内容

2024年度の未踏ターゲット事業を通して、機械学習を用いた次元圧縮 & QUBO構築によるアニーリングマシン向け計算補助ミドルウェアの開発に取り組みました。
量子アニーリング・イジングマシンは組合せ最適化問題を⾼速・⾼精度に求解できるマシンです。我々が同じ研究室に所属し、量子アニーリング・イジングマシンの研究に取り組んでいたときは(注:阿部さんは現在も研究室に在籍中)、企業との共同研究などを含めて、様々な分野で応用や社会実装が検討されている現場を目の当たりにしてきました。しかし、研究室の一歩外に出ると、実社会でアニーリングマシンがどのように使われているのかを聞く機会はそれほど多くないと感じています。我々は、その理由の一つとして、入力形式がバイナリ(0-1)に限定され、QUBO形式による目的関数の定式化が必要であることが挙げられるのではないかと考えました。特に、最終的にバイナリに変換することで問題規模が大きくなってしまうという課題に着目し、入力となるバイナリ変数の数を圧縮して問題をできる限り小さくすることによって大きな問題を効率的に解けるのではないかと考え、本テーマを設定しました。本プロジェクトでは、機械学習、特にAutoEncoder(AE)を用いることで、解空間を圧縮しつつ制約条件を満たすバイナリ表現を獲得する手法を開発し、アニーリングマシンの適用可能領域を拡張することを目指しました。

組合せ最適化問題の概要

アニーリングマシンで解きたいものの、従来のQUBO形式への変換によって変数が増大してしまうような問題の例として、主に巡回セールスマン問題(TSP)を対象としました。TSPは、複数の都市(ノード)を一度ずつ訪問し、最終的に出発点に戻る巡回経路の中で、移動コスト(距離や時間)の合計が最小となる経路を求める問題です。今回の手法では、例えば、8都市TSPとした場合、64ビットのバイナリ変数を16ビット程度のバイナリ変数まで圧縮し、圧縮したバイナリ変数で最適化問題を解き(FMAを活用)、答えをデコーダーで元の変数に戻して解を得ます。

決定変数
  • 都市数がnのとき、都市間の移動を表すn×nの2次元のバイナリ変数を使用
  • 具体的には、「都市iから都市jに移動する場合は1、そうでない場合は0」となるような変数を定義
  • これらの変数はAutoEncoderによって圧縮され、効率的なQUBO表現として利用
目的関数
  • 移動にかかる距離の総和を最小化
制約条件
  • 各都市はちょうど1回ずつ訪問される
  • 同じタイミングに複数都市は訪問されない
苦労した点

もっとも苦労した点は、AutoEncoder(AE)による圧縮を成功させるための機械学習のハイパーパラメータ調整でした。CNNやRNNなどを試しましたが、特にどの程度まで次元圧縮できるのか・すべきなのかが全くの未知だったので、大変苦労しました。7月から9月までの3ヶ月間は、オートエンコーダ―で圧縮してデコーダーで戻すことができるのかをひたすらに検証していました。はじめのうちは無理やり小さくしようとがむしゃらに進めていたのも苦労した原因の一つだったのかなと感じています。
9月にある程度の型ができた後は、精度向上のための試行錯誤を行いました。12月頃までは性能が出ず焦りを感じていましたが、特定のパラメータの値や学習時間などの勘所が徐々に分かって、1月ぐらいにやっと結果が出始めました。ただ、現時点でも、完璧と呼べるような型はまだ見つかっておらず、また、問題サイズが大きくなるほど学習コストが増大するという課題もあり、今後まだ改良の余地があると思っています。

嬉しかった点

小規模なTSPに対して有効な圧縮が実現できたことは大きな成果であり、非常に嬉しく感じています。二人ともオートエンコーダー部分の知識がほぼない状態でスタートしたので、多くの試行錯誤が必要となりましたが、二人で地道に歩んだプロセス自体が楽しかったです。2月の成果報告会の発表後に Slackチャネルで質疑応答が活発だったのも見ていて嬉しかったです。
また、今回のプロジェクトではFixstars Amplifyを活用したことで、同一のQUBO定式化で複数のマシンでの実行が可能となり、マシン固有の詳細などに深く踏み込むことなくAutoEncoder(AE)による圧縮技術の開発に専念することができました。プロジェクトの焦点を明確に保つことができて、大変有用でした。

今後の展望

論文の公開やツールのGitHub公開を計画しています。2025年度もIPA未踏ターゲット事業で開発・検証を続ける予定です。

見ている方に一言

今回、私たちが特に注目したのは、組合せ最適化問題におけるQUBO定式化の際のバイナリ変換の部分です。同じ問題であっても、どのように定式化するかによってアニーリングマシンが導き出す解の質が大きく変わります。この「定式化次第で精度が変動する」という点が非常に興味深く、ある意味で組合せ最適化における創造的な要素でもあると感じています。アニーリングマシンは与えられたQUBOを高速に探索してくれますが、その「与え方」には無限の工夫の余地があります。問題の構造をどう捉えるか、どこまで圧縮・変換するか、そしてどんな制約をどう組み込むか、まさに使う人によってアプローチは千差万別です。ぜひみなさんも、公式の手法にとらわれすぎず、「自分なりの定式化」「自分なりのアニーリングマシンの使い方」を探して、自由な発想でチャレンジしてみてください。そこにこそ、この分野の本当の面白さが詰まっていると思います。

*本記事の掲載内容は全て取材時の情報に基づいています

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