豊田章一郎 様
豊田鈴 様
建設業界に係る環境問題の解決をテーマに取り組みました。世界のCO2排出量の約40%が建設業由来と報告されており、その対策として、ZEB(Net Zero Energy Building)という年間のエネルギー消費量の収支ゼロを目指した建築物を増築することが世界中で推進されています。ZEBの実現には、大幅な省エネルギーが必要です。先進的な設備や素材を特定の制約条件の中で適切に組み合わせることで、建物のエネルギー負荷を抑制することが重要となります。今回の未踏ターゲット事業では、環境に配慮した建築物普及への寄与を目指して、アニーリングマシンを活用することで建築省エネ基準から外観デザインを逆算できる、省エネ建築設計サポートツール「ZEBOpt」(ゼブオプト)の開発に取り組みました。
建築外皮(外観のデザイン)は外壁、窓、屋根等から構成されるため、既往研究を参考に、外観のデザインパターンを建材の種類と使用される面積の組み合わせに落とし込み、省エネ(外皮の断熱性の高い)かつコストを抑えた建材の組み合わせを探索する最適化問題としました。
建材(外壁・屋根・窓)の種類 (i) と面積 (j)
決定変数のイメージ
面積 (m2) (j) | |||||
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5 | 10 | 15 | ・・・ | ||
建材 (i) | 壁A | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) |
壁B | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | |
窓C | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | |
屋根D | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | q (0 or 1) | |
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もともと大学院に在籍していた時に、似たテーマで海外の文献を参考にしながら遺伝的アルゴリズムを使って研究をしていました。今回は日本向けのツールということで、建物の断熱性能を表すBPI(Building Palstar Index)も日本の基準を用いていますが、日本のBPIの基準を数式で明確に定義してある文献が見当たらず、まずは数式に書き起こすのが大変でした。
また、BPIの計算に必要となる建材の情報についても、デザイン的な情報は多いのですが物性値等の情報は少なく、網羅的なデータベースも存在しなかったため、今回は物性値がある建材をサンプルにしながらモックデータを用いて取り組みました。
断熱性能と建材コストのバランスが取れた建材選択は重要であり、今後の規制に対応するためにも、この分野での需要は大きいと考えています。現在、使いやすいツールが不足しているため、将来的にはサービスとしてリリースしたいと考えています。
今後の展開としては、入力情報や前処理の改善、決定変数の工夫、ユーザーインターフェースの改良を進めていきたいと思っています。ビジネス面においては、多くの建材メーカーや設計者が参加できる仕組みやプラットフォームの構築が不可欠だと考えており、この協力的な枠組みの開発にも取り組んでいきたいと思っています。
BPIについて、当初は特定の値以下といった不等式制約で扱うことを検討していましたが、BPIの計算は絶対値を含むため、アニーリングマシンで扱うことができるように2乗して目的関数(ソフト制約)として扱うことにしました。結果的には、目標とするBPI値付近の様々な建材の組合せを提案するという、ユニークな価値の提供に繋げることができて嬉しかったです。
複雑な作業工程を要するものづくり産業が盛んな日本には、解くべき組合せ最適化問題が多く存在しますが、ソフトウェアエンジニアだけではそもそも問題を発掘することも難しく、様々な分野の人材が最適化問題に取り組むことに大きな価値があると考えています。今回活用させていただいたFixstars Amplifyのような、数理最適化の専門家でなくても最適化問題に取り組みやすいツールが充実してきているので、経験値に気負わず組合せ最適化問題に取り組んでいただき、一緒にものづくり産業を盛り上げていけたら嬉しいです。
*本記事の掲載内容は全て取材時の情報に基づいています