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東京大学大学院 新領域創成科学研究科

ブラックボックス最適化手法(FMQA)の開発に成功

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(左から)田村様、津田先生、北井様

ご利用製品

Fixstars Amplify Annealing Engine

お話を伺った方

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻
津田 宏治 教授(写真中央)

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター チームリーダー(兼 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 講師)
田村 亮様(写真左側)

東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構(現 東北大学 未踏スケールデータアナリティクスセンター)
北井 孝紀様 (写真右側)

聞き手
株式会社Fixstars Amplify 代表取締役社長 CEO
平岡 卓爾
関連する論文

K. Kitai, J. Guo, S. Ju, S. Tanaka, K. Tsuda, J. Shiomi, and R. Tamura, “Designing metamaterials with quantum annealing and factorization machines”, Physical Review Research 2, 013319decoration (2020)

Z. Mao, Y. Matsuda, R. Tamura, and K. Tsuda, “Chemical Design with GPU-based Ising Machines”, Digital Discovery 2, 1098-1103decoration (2023)

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津田先生の研究室では、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)に関する理論や応用の研究に取り組まれており、2020年には、FMQAと呼ばれる機械学習と量子アニーリングを組み合わせたブラックボックス最適化の手法を提案されました。FMQAは、先生方が取り組まれている材料開発の領域のみならず、化学、創薬分野における物質探索や、製造業における最適設計(翼形等)などの幅広い領域にも適用可能な手法であることから、多方面から大きな注目を集めています。FMQAの誕生秘話などについて、津田研究室の皆様にお話を伺いました。

インタビューテーマ

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    人の巡り合わせから生まれたFMQA
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    「最適化のアウトソース」という考え方
津田研究室が取り組んでいる研究領域と、FMQAの概要を教えてください。

津田先生我々の研究室では、機械学習、データマイニング、統計科学の理論研究と、分子生物学、タンパク質科学、有機化学、材料科学などの幅広い分野への応用研究を行っています。

FMQAは、Factorization Machines(FM)と呼ばれる機械学習と、量子アニーリング・イジングマシン(QA)による最適化を組み合わせた離散変数を使ったブラックボックス最適化の一種です。ブラックボックス最適化とは、入力と出力は観測できるものの内部で起こっている現象が複雑で明示的なモデル化が困難なシステムに対して、所望の出力を得るための最適な入力を探索する手法です。ブラックボックス最適化を解くためには、機械学習やベイズ最適化などを活用しながら、実験やシミュレーションを繰り返し行い最適な解を探していくことになりますが、FMQAを用いると効率的な解の探索が可能になり、実験やシミュレーションの回数を大きく減らすことができます。

北井様 2020年に、FMQAという手法と、FMQAを熱放射材料(メタマテリアル)の設計に適用した結果を論文として発表しました。FMQAを用いることで、これまでにない放射冷却性能を持つ構造の設計に成功し、FMQAは優れた最適化性能を持つことを示しました。なお、当時はQAの部分にはD-Wave社の量子アニーリング マシンを使っていました。

津田先生 (東京大学大学院新領域創成科学研究科 津田 宏治教授)

田村様2023年には、分子構造の自動設計に挑戦し、離散的なVAE(変分自己符号化器)とFMQAを組み合わせた手法は、従来の連続的なVAEとベイズ最適化を組み合わせた手法よりも、高性能な分子構造の設計が可能であることを示しました。この論文では、QAの部分にFixstars Amplifyを使っており、論文執筆にあたりFixstars Amplify社CTOの松田さんにもご協力いただきました。

FMQAの概念図
離散VAE+FMQAにより設計された分子と従来手法により設計された分子の性能比較
FMQAが生まれた背景や経緯を教えてください。FMQAの誕生には津田先生の直感的なひらめきや人の巡り合わせが大きく影響しているとも聞きました。

田村様私はもともと物理の出身で、学生時代はイジングモデルの研究などを行っていました。2012年からは国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)に所属し、研究対象が材料や化学の領域へと移っていきましたが、2017年からはご縁があってMI分野が専門の津田研究室で講師をやらせていただくことになりました。

2018年頃だったと思いますが、会話の中で先生が唐突に「量子アニーリング(イジングモデル)はブラックボックス最適化にも使えると思う」と仰ったんです。

2017年にD-Wave社の2000Qという量子アニーリングマシンがリリースされ、世の中で少しずつ「量子アニーリング」という言葉を聞く機会が増えてきた頃でしたが、当時は、量子アニーリングマシンを使うためにはまずは定式化が必要との認識のもとで、量子アニーリングマシンの特徴を活かすような2次の問題やその定式化について試行錯誤を繰り返している状況だったので、明示的な定式化を行わないブラックボックス最適化に量子アニーリングを使うと聞いた時は、えっと驚いたのを覚えています。

津田先生 当時は「量子コンピュータ」が注目され始めた頃で、個人的に大変興味を引かれており、なんとか自分の研究でも活用できないかと思っていました。決定的な何かがあったというわけではなく、なんとなく量子アニーリングを使うならこのあたりかな、と直感的に思いました。田村様がイジングモデルや量子アニーリングの研究をしていたことを知っていたので、田村様に話をしたんです。

田村様 そのお話があってから、最初は半信半疑だったのですが、回帰問題をブラックボックス最適化問題として量子アニーリングマシンを使って解いたところ、思った以上にうまくいったため、大変驚きました。その後、北井様も含めて色々と試行錯誤を繰り返していく中で、入力データの学習には、決定変数同士の2次の項を含めたモデル推定を行うFMにすれば、推定したモデルの係数をそのままQUBO係数として使うことができ、一気通貫で組合せ最適化問題が解けるのではないかと気付いたことで、研究が一気に進んでいきました。

実は、2020年に発表した論文は、テーマよりも先にアルゴリズムができていたんです。できあがったアルゴリズムがある中で、適用できそうな問題を探したところ、メタマテリアルの設計というテーマを見つけたという順番でした。津田先生と一緒に研究を進めていく中で、新しいものが生まれるときはこういう感じなのかもしれない、と大いに感銘を受けました。

なるほど。津田先生の直感的なひらめきと、必要な知見を持ったパートナーが近くにいたことがFMQAの誕生には大きく影響していたのですね。Fixstars Amplifyを使うことになった経緯を教えてください。

田村様私は、2018年から未踏ターゲット事業でプロジェクトマネージャー(PM)を務めており、同じようにPMをしていた現在のFixstars Amplify社CTOの松田さんとは面識がありました。また、2021年度からは未踏ターゲット事業でもFixstars Amplify社のサービスが活用されていて、実際に使った学生の方々からFixstars Amplify SDKが使い易いという話や、GPUベースのイジングマシンであるFixstars Amplify AEの性能がよいという評判も聞いていました。

今回のブラックボックス最適化の研究を開始した当初は、「量子」がきっかけだったということもあり、D-Wave社の量子アニーリングマシンを使っていましたが、研究を進めていくうちに、より大規模な問題も解いてみたいと思うようになり、評判が良かったFixstars Amplifyを使ってみることにしました。D-Waveとの比較も簡単に行うことができる点や、アカデミアでの研究・開発用途には無料で使えるという点も魅力でした。

実際にFixstars Amplifyを使ってみてどうでしたか?

北井様Fixstars Amplifyのウェブサイトにはドキュメントやサンプルコードが充実しているので、それらを活用することで難なく使いこなすことができるようになりました。また、one-hotなどのヘルパー関数が充実していて、マシンの設定なども全て自動でやってくれるので、とても使い易いと感じています。

田村様津田研究室は、ポスドクや博士課程に所属しているメンバーの半数以上が外国の方なので英語で研究を進めていくことが多いのですが、Fixstars Amplifyのウェブサイトには、英語のドキュメントやサンプルコードも充実しているので、その点でもとても助かっています。

今回の研究で苦労されたことはありましたか?

津田先生研究を始めた当初は、一応プログラムは動くけど、思うような結果が得られないということがたくさんありました。また、FMは機械学習ということもあり、うまくいかない原因の解明にも限界があり苦労しました。

ただ、色々と研究を進めていくうちに、ブラックボックス最適化においては、モデル推定(FMの部分)の予測精度が高くても、最終的に得られる解がよいわけではない、という不思議な現象がみられることに気付きました。普通に考えれば、モデル推定の予測精度が高い方が最終的に得られる解もよくなりそうですが、経験的には必ずしもそうではなさそうだということです。その理論的な裏付けはまだ確立されていませんが、FMがシンプルなモデルであり、イジングマシンによる探索との相性がよいということなのかもしれません。

今後のFixstars Amplifyに期待することがあれば教えてください。

津田先生ブラックボックス最適化では、データから推定した獲得関数を用いて最適化(最適解の探索)を行いますが、この最適化が結構大変です。理論的に大変というよりも、遺伝的アルゴリズムやベイズ最適化、イジングマシンを使った最適化など、複数ある最適化手法を比較・検討したり、それぞれの最適化手法を適切に使いこなすためにパラメーターの調整を行ったりすることが、最適化の専門家ではない者にとっては大変だと感じています。

我々は、最適化の研究ではなく、材料の研究にできるだけ多くの時間を割きたいと思っているので、最適化の手法がある程度標準化されていると大変助かります。例えば、我々のような応用の研究者はQUBO問題に帰着させるところまでを行い、その先の最適化については、最適化の専門の方々が考えた複数の手法の中から、自分たちの問題に合うものを選んで実行するだけでうまくいく、というような「最適化のアウトソース」が可能になれば、応用の研究者たちは、自分たちが集中すべき部分により集中して取り組むことができるようになると考えています。Fixstars Amplify社は、そのような専門の技術を誰もが使いやすい形で提供するというビジョンで事業を推し進めていると理解していますので、それが更に進むといいなと思っています。

最後に、研究に関する今後の展望を教えてください。

津田先生現在は連続値を取り扱うFMQAや、多目的最適化を取り扱うFMQAに関する研究を進めています。また2次だけではなく、3次や4次のFMQAに関する研究にも取り組んでいく予定です。これらの研究を通じて、FMQAがより複雑で難しい問題にも適用できることを示し、MIやMI以外の領域でもFMQAの活用が進んでいけば嬉しく思います。

*本記事の掲載内容は全て取材時(2023年7月)の情報に基づいています

インタビューを終えて
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量子アニーリング・イジングマシンの活用方法の1つとして近年注目されている、FMQAの「生みの親」である津田先生・田村様・北井様にお話を伺いました。新しい研究分野が生まれる瞬間の、ダイナミズムを感じることができるインタビューになったと思います。FMの精度を追い求めすぎず、ブラックボックス最適化プロセス全体のバランスを取ることのほうが重要だ、とのご指摘などは実務上も大変参考になるものでした。
弊社では様々な分野のお客様に、FMQAを利用した研究開発のご支援を提供しています。ご興味をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせください。

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聞き手: 平岡 卓爾(株式会社Fixstars Amplify 代表取締役社長 CEO)

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